眼球運動
ビジョントレーニング(指導方法・発達障害)
勉強が嫌いな生徒さん(発達障害やグレーゾーンも含む)のなかには、読み書きや手先を使った作業が苦手で学校の授業についていけずに自信を失ってしまったことが一因である方がいます。
そうした生徒さんには、苦手を克服して自信を取り戻すためのさまざまなお手伝いをしていますが、そのなかの一つに、「ビジョントレーニング」という眼球の運動や、視覚空間の認知、眼と体のチームワークを鍛えるトレーニングがあります。このトレーニングを毎日少しの時間でもいいので継続して行うことによって、視力に問題がないのに読み書きや運動で困難を抱えられている生徒さんに効果が見られています。
私は授業でこのトレーニングをする時間を作ったり、お家でしてもらったりしています。生徒さん一人ひとりに興味を示す内容、できるレベルが異なったりするので、それらを考慮したうえで楽しく続けていけるトレーニングのプランを立てるように気を付けています。
今回はそれを実践した生徒さんのお話をしたいと思います。
小学校低学年のAちゃんは、読み書きや図形を描くことが苦手で、学校の授業では板書をすることができませんでした。Aちゃんのこうした状況の一因として、視覚機能(見る力)の未熟さがあると考えられました。この力を高めるために行ったことの一つに、ビジョントレーニングがありました。
ビジョントレーニングには様々な種類があり、生徒さんの興味や習熟度、向上させたい視覚機能に合わせて行うものを決めて、つまずいたり飽きたりせずに取り組めるようにアレンジを加えたりもしています。
Aちゃんと行ったトレーニングには、以下のものがあります。
- キョロキョロ運動(片手に持ったペンを動かしながら、一緒に眼を動かす。)
- 線なぞり(線を目で追いながら指や線でなぞる。)
- テングラムパズル(組み合わせると正方形になる10ピースのパズルを使って、見本と同じ形を作る。)
- スティックパズル(組み合わせると正方形になる24ピースのパズルを使って、見本と同じ形を作る。)
- 棒タッチ(動く棒の先に指でタッチをする。)
- 折り紙チョキチョキ(折り紙を半分に折って先生が切り取り線を書く。そして〇や△などの形をはさみで切りだす。)
これらのトレーニングのなかで、Aちゃんがつまずかずに楽しく続けられるように特に工夫をしたものとして、ビジョントレーニングの1つ、「テングラムパズル」をご紹介したいと思います。
テングラムパズルは、組み合わせると正方形になる 10 ピースのパズルを使って、見本と同じ形を作るパズルです。このパズルをAちゃんに合うよう作ったときに特に気をつけたのは、見本として使用するパズルの部分です。具体的には、以下の4点に気をつけました。
- Aちゃんが興味を持ってくれるように、好きな動物や植物、乗り物などの形をパズルに多く登場させるようにしました。
- 背景が真っ白だと、形がイメージしにくかったり、楽しそうに見えないと思いました。そのため、パズルの後ろには背景を加えました。
- 背景が目立ちすぎてしまうと、パズルよりもそちらに視線がいってしまったり、どこがパズルなのかわからなくなってしまうかもしれないと考えました。そのため、目立たせたいパズルの部分は太い線にして、背景の絵はシンプルで細い線にしました。
- Aちゃんが無理なくステップアップしていけるよう、同じパズルでも、ピースを置く部分が白くなっているものと、それより少しわかりやすくなっている、パズルの内側に使うピースの形がわかる線が入っているものの二種類を作りました。
下の画像は、内側に線が入っているパズルに、ピースを置いているところです。
ではこのトレーニングをどのように行っていったかについてお話したいと思います。
Aちゃんが楽しみながらつまずかずにステップアップしていけるよう、 以下の順序で進めていきました。
- テングラムパズルを楽しいと思ってもらうために、 10 このピースを好きな数だけ使って動物や図形などの思いつく形を作り、何の形かを当てっこしあうゲームをする。
- はじめから10ピースすべてを使うのは難しいので、必要なピースだけを使い、見本の絵の上にピースを置く。
- 内側に使うピースの形がわかる線が入っている見本の絵を見て、 必要なピースを選んで置く。このとき、 絵の難しさに合わせて、必要であれば選ぶピースの数は減らしておく。
- 内側の線が入っていない絵の上にピースを置く。
- 絵の横にピースを並べて絵を再現する。
すべてを実際にやって見せてから、Aちゃんと私とで一緒にやって、楽しみながら進めていきました。また、2~5については、はじめは 2 、 3 ピースで作れる簡単な形からスタートして、徐々にピースを 8 ~ 10ピース使用する複雑な形にも挑戦していきました。さらに応用としては、絵の形を記憶して、見ないで作ったりするパズルにもチャレンジしていきました。段階的にレベルアップしていったことで、Aちゃんは無理なく飽きずにトレーニングを続けてくれました。
テングラムパズルなどのビジョントレーニングの継続や、日々の勉強で、Aちゃんは次第に見たものの形を正しく認識したり、かいたりすることができるようになっていきました。例えば、はじめは三角形や四角形を見分けたり描いたりすることが苦手だったのですが、今では、分度器や定規、コンパスを自在に使って、二等辺三角形やひし形などの図形を上手に描くことができるようになりました。字を書くことも、はじめは苦手で嫌がっていたのですが、一生懸命に板書をして、ノートを見せてくれるようになりました。最近は、お手紙やオリジナルの絵本を作ってプレゼントしてくれるようにもなって、宝物にしています。
このように、Aちゃんはビジョントレーニングを始めてからとても成長しました。「見る力」を向上させたいときには、ぜひビジョントレーニングをしてみていただきたいです。
ほかにもビジョントレーニングも、機会があればまたご紹介していきたいと思います!
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