塾の限界
発達障害と塾(グレーゾーンにも理解)(自宅学習・発達障害)
こんにちは。プロ家庭教師のジャンプの中川です。今回は私が担当していた一人の生徒さんについてお話します。仮にY君とします。
Y君 小学5年生のときにプロ家庭教師のジャンプに入会
漢字が苦手で注意欠陥障害に近い特性がある
今なら2年前、Y君が小学5年生のとき、プロ家庭教師のジャンプに入会し私が担当となりました。入会前の経緯としてお母様から聞いた話ですが、小学2年生あたりから国語、特に漢字が他の子供に比べて覚えがとても悪かったらしく、やっと覚えたと思っても次の日には忘れてしまう、書いてはいるが形がおかしい、ということが繰り返し日常的に起こり、本人も漢字を書くことに抵抗を示すようになったそうです。当時、お母様も自宅で宿題の漢字ドリルなど隣について一緒になってなんとかフォローをしていたそうですが、どうしても親子だとお互い感情的になってしまうということで「漢字学習のアウトソーシングを先生にお願いします」と独特の表現で苦手な漢字克服を依頼されました。
特性を理解して指導してくる学習塾がない!
当初は家庭教師という発想がなく、発達障害、特に学習障害の児童をサポートしてくれる塾を探していたそうです。しかし、学習面で困難を抱えた発達障害に近い特性を持つ子供たちの学習指導に対応している塾というとのが見つからなかったそうです。「インターネットで[発達障害 塾]などで検索すればもちろんたくさんそういったサイトは出てくるのですが、ホームページで謳っている内容と実際の指導法に大きな隔たりがありました。」とお母様はおっしゃっていました。(8つの塾の体験を受けたが、その多くはSST(ソーシャルスキルトレーニング)がメインであったり、勉強を教える塾はどこも大学生のアルバイトで発達障害についての知識や対応経験がほぼなかったそうです。また、教えているときに教師が「なんでそうなるの?」「さっきも言ったでしょ」「ダメだなあ」など本人が自信をなくしていく声掛けばかりだった先生もいたそうです。発達障害対応、と謳っているのに、です。発達障害や特性ある子供の困り事を理解してくれて、そのうえでその子に合う指導法で勉強を教えている塾なんて世の中に存在しないのか、、と半ば諦めていたそうです。そんな悩みを小児科の先生に相談したところ、そこの先生が家庭教師のジャンプという会社がある、と教えてくれたそうです。)
そんな経緯から、私が彼の漢字アウトソーシングを任されました。そして、Y君を教えていくなかで、彼のさまざまな特性が発見できました。
私が最初に感じた彼の特性は以下の3つです。
- ①お手本を見ながら写している
- ②たくさん何度も書く作業をしていて、書けば書くほど字が雑になっていく
- ③ADDに近い特性があり(診断はなし)
*ADDとはADHDのなかの衝動性や多動性がない、注意欠陥障害のみの症状をADDと呼んだりします。他の気になることが頭から離れず集中が途切れやすいというような特性があります。
①については、割と小学生には多い傾向なのですが、見ながら書き写している限りは覚えることはできません。お手本を見ないでも書けるようにならないと学校のカラーテストではお手本がありませんから、点数も取れないままです。アウトプットがいかい大切かをまずは繰り返しの小テストで彼にも理解してもらいました。
②たくさん何度も字を書くことが好きな小学生は殆どいないと思います。それでも学校の宿題でノートに何回も書くことを指示され、嫌々泣く泣く書いている子供が世の中にたくさんいることでしょう。書けば書くほど指や手が疲れてまさに苦行になっていきます。私はY君には、鉛筆を基本的に用いないやり方でアウトプット法を教えました。
③他の気になることよりも目の前の漢字学習に夢中にさせる仕掛けを用意しました。Y君はゲームとYouTube(マインクラフトのゲーム実況)にどっぷりハマっていたので、それを利用しました。ゲーム感覚で難度をわかりやすく設定し、クリアすればご褒美としてユーチューブのマインクラフト実況を3分間一緒に見ることができる!家庭教師の勉強中にユーチューブでゲーム動画を見せるなんて、と思う方もいるかもしれませんが、私が許可したのは英語のゲーム実況です。下手な英会話よりも実用的でコミカルな英語を聞いて楽しめるので私は良いコンテンツだと思います。
また、Y君はWISCという知能検査も受けており、その数値のなかで一際低かったものが知覚推理と処理速度であったため、目で見た情報を認識することや(知覚推理)、字の形を正確に捉えて書き写すこと(処理速度)は困難だろうとは理解していました。
ですのでさきほどの②の特性もあるため尚更なるべく耳からの情報を頼りにリズムよく唱えながら指で空書きをしていく漢字学習を行っていきました。
指導が始まって3カ月ほど経過し、Y君の漢字への苦手意識は消え去りました。むしろどんどん書けるようになっていき「俺って実は漢字得意かも!」とまで口にするようになりました。
驚いた3つの出来事
そして、ここからが私が一番驚いた3つの出来事のお話です。
英語もやりたい!
ある日、Y君から「先生、今度漢字と英語もやりたい」と話があったのです。5年生の夏休み中の出来事でした。通知表で英語があまり良くなくて、それでもユーチューブで聞いて学んできた英会話は楽しくてもっとわかるようになりたい、単語を覚えてマインクラフトをしているときに自分も使いたい、という彼の言葉に私は「是非やろう!一緒に英語マスターになろう!」と賛同しました。
そうして夏休み明けて9月から、漢字&英語という二大語学指導がスタートしました。これが一つ目の衝撃のお話です。
中学受験をしたい!
2つ目は秋に訪れます。
ある日Y君が指導中に突然私のほうを見て「先生、俺中学受験する」と切り出しました。突然のことで、「え?」と聞き返してしまいました。話を聞くとどうやらY君の一番仲の良い友人が春から中学受験専門の大手塾に通い始めていて、そのお友達が志望している私立中にY君も行きたくなったというのが理由でした。学校名は伏せますが、偏差値60台後半の難関中学を目指したいということでした。高い目標を持って勉学に励むことは素晴らしいことです。私は彼の背中を押してあげることを決意しました。そこからは家庭教師の指導だけで中学受験対策をしていくというように指導内容もシフトしました。
ユーチューバーになりたい!
三つ目の衝撃は冬に来ました。
Y君「先生、俺さ、ユーチューバーになる。英語と日本語両方使ってゲーム実況するユーチューバー。」
普通の、といえば語弊がありますが、大抵の親なら「バカなこと言ってないでちゃんとした目標を持ちなさい」と否定するところかもしれません。しかし【背中を押して寄り添い生きていく自信を育てる】をモットーにしている私は当然彼のユーチューバーという夢を応援しました。なにより英語を喋れることが前提なわけですから応援せずにはいられません。
さらにY君は「だから高校なったら留学したい。」とつないできました。
漢字指導の合間にやった英語のユーチューブがきっかけで英語に興味を持ち、目標も出来て留学意欲も出てくる、わずか1年でそこまで変化した彼の成長に私は感動しました。
さて、そんなY君ですが、実は今もまだ私の指導は続いています。途中で紆余曲折あり、中学受験をする話はなくなり、今は地元の公立中学に通っています。[紆余曲折:人間関係からの行き渋り(不登校まではいかず)・薬(ストラテラ→コンサータ)の服用開始と停止・引っ越しetc)]
発達障害と塾というテーマから、Y君との物語になってしまいましたが、【発達障害 塾】で困り事を抱えているご家族にとって、私のこのエピソードが少しでも何かのお役に立てられるなら幸いです。
ではまた、いつか数年後のY君の成長についても書いていきたいと思います。
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