自立したい
自立したい ある不登校の中学生の話(不登校)
私が教師人生を歩むきっかけの1つとなった生徒さんのことを書かせて頂きます。
私は大学生時代に、アルバイトで家庭教師や塾講師をしていました。その塾の先生から、個人的に紹介された知り合いのお子さんが、今回お話しする生徒さんです。
その生徒さんは当時中学3年生、しかし、2年生の2学期ごろにお母様と大喧嘩をし、その後、学校に行かなくなってしまっていました。お母様との喧嘩のきっかけは、お母様が生徒さんにかける期待があまりに大きすぎたことです。
その生徒さんには少し年齢の離れたお姉さんがいました。このお姉さんは、塾に行くことも無く、家庭教師もつけず、時々お母様に参考書を買うお金を求める以外は自分で勉強した方でした。それで、中学で学年1位、地元のトップレベル公立高校に進学してそこでも学年トップクラス、大学受験の勉強すら自分でやって、現役で全国に名の知れたトップレベルの大学に進学しました。
幼い頃からこのお姉さんと生徒さんを見てきたお母様には、生徒さんはお姉さんよりもさらに賢い子に見えていたため、生徒さんの中学のテスト結果が、お姉さんに劣ることに納得できなかったそうです。それで、テストの成績が(お母様から見て)悪いのは、生徒さんが勉強を怠けているせいだと思い、もっと勉強するようにと強く求めました。
しかし、生徒さんにとっては頑張っても頑張ってもお母さんの出す宿題が終わらない。自分なりに頑張ったテスト結果も「お姉さんはもっと頑張っていた」と言われ、褒められることもほとんどない。そしてある日「僕はお姉ちゃんとは違うし、お母さんの言う通りにするために生きているわけでもない」と「キレて」しまったことが「大喧嘩」の内容であり、不登校となったきっかけです。
当時、私は家庭教師経験自体はありましたが、不登校の生徒を担当するのは初めてでした。普通に勉強を教えるつもりで、特別な準備もしないまま向かった指導初日、生徒さんは部屋にこもってしまい、会うことすらできませんでした。しかし、お母様から「あの子を悪く思わないでください。私がいけなかったのです」「何とか力をかしてください」と涙ながらにお願いされ「学校の教師とは違い、塾講師や家庭教師は勉強を教えるだけで良い。生活指導だの進学指導だの部活の顧問だのは無いのだから楽なものだ」と考えていた当時の私は自分の認識の甘さを思い知りました。
個人契約であり、紹介してくれた塾の先生も詳しい事情を知らなかったため、1人手さぐりでの指導となりました。
まず1ヶ月をかけて生徒さんと一緒にゲームをしたり、好きな漫画の話をしたりして仲良くなりました。
その後、さらに1ヶ月をかけて「中学を出てからどうするのか」「将来、どういう自分を目指すのか」を生徒さん本人と何度も話しました。そして彼が言った言葉は「自立したい。親に頼らずに生活できるようになりたい」でした。そこからはお母さんも含めて話し合い、地元の定時制高校を目指すことになりました。昼間はアルバイトをして、学費や生活費を自分で稼ぎ、早く自立したい、という理由からです。
元々、学力に大きな不足があったわけではない生徒さんですから、定時制高校合格のための学習指導では特別なことは必要ありませんでした。ただ、中学校の、特に担任の先生とは生徒さんは合わず、不登校自体はそのままになってしまいました。
目標としていた定時制高校には無事合格し、私の指導も終了となった3月のある日。お母様から私に電話がありました。「息子が卒業式には出たいと、自分から言ってくれました。本当にありがとうございました」と、今度は涙ながらではなく、号泣しながら伝えてくれました。
自分は教師として誰かの役に立てる、と実感した出来事であり、教師とはただ勉強を教えるだけではなく生徒・保護者と関わり、協力してより良き未来を目指す職なのだということを実感した出来事でした。
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